相続税や相続の対策を、これから考える方向きの記事です。
小さな相続専門税理士のきむら あきらこ(@k_tax)です。
この記事では、まず最初に、相続税対策の基本をお話します。
後半は、生命保険を活用した対策について、その概要をまとめています。
税理士きむら
相続税対策3つの手法
まず、相続税対策の基本について、おさらいです。
難しそうな相続税対策も、ざっくり次の3つの手法に分けることができます。
財産を減らす
相続税は正味財産(財産-債務)に課される税金です。
そこで、相続税対策は、一般に
① 財産の価値を減らす
② 財産そのものを無くす
ことで税額の軽減をはかります。
と言っても、ほんとに財産価値が下がったり、財産が無くなってしまっては、意味がありません。財産の評価は下げつつ、財産を持つことの「うまみ」は失われないようにするのが、対策を行う上でのポイントです。
「① 財産の価値を減らす」の具体例としては、例えば、土地所有者がローンを組んでマンションを建設するなど、資産の収益性を見込み、その資産に紐付きの借入を行うこと。
ローンの分、正味財産(財産-債務)が目減りすることになり、節税に繋がります。
ただし、むやみやたらに借入をすれば良いわけではありません。将来、その借入を上回る収益性が見込める資産に対し、ローンを組むようにします。
「② 財産そのものを無くす」の具体例は、贈与の活用です。
家族に贈与をすれば、自分の手元の財産が無くなるので、相続税の課税財産は減ります。
しかし、贈与した財産は家族のものになるので、ファミリー全体で考えれば、財産が無くなったわけではありません。
贈与をする際に気をつけなければならないことは、相続発生日前3年以内の贈与は相続財産にプラスされるということ。
「そろそろお迎えが近いかな…」と思ったら、法定相続人以外への贈与はこの規制の対象外なので、自分の子に贈与するよりはお孫さん等に贈与をしたほうが得です。
あと、贈与税率と相続税率の税率差を考えて贈与しないと、損になる場合があります。
また、毎年同じ日に同じ額を贈与すると、定期贈与とみなされてしまう可能性があります。そうならないよう毎年の贈与契約書を取り交わす等の注意が必要です。
優遇措置の活用
税金には、社会政策上や社会保障の観点から、さまざまな優遇措置があります。
相続税にも、次のような優遇措置があります。これらを熟知し活用することが、相続税対策につながります。
配偶者の税額の軽減 | 被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度。 (1)1億6千万円 (2)配偶者の法定相続分相当額 |
小規模宅地等の特例 | 被相続人等の自宅や事業用の敷地について、まともに相続税を課したのでは居住や事業を継続できなくなってしまうおそれがあるため、一定の要件のもと、高額な減額を認める制度。 |
相続時精算課税制度 | 親(祖父母)の財産を生前贈与により取得する場合に、相続時に精算することを条件に、納める贈与税が軽減される制度。 |
ただし、優遇措置をうまく活用するには、税理士に相談されることをおすすめします。なぜなら、特例の要件は、ちょっと複雑だからです。
たとえば相続時精算課税などは、事前に検討を行わないと、採用した結果、損になる可能性もあります。
納税資金の確保
相続税の対策で一番大切なことは、納税資金の確保です。
配偶者やお子さんが財産を引き継いだものの、その財産が換金しにくいため、自分の預貯金を取り崩したり借入をしたりして納税する羽目になっては、可哀そうですよね。
相続した財産の中から納税できるよう、資産の構成を考えてあげることが、配偶者やお子さんへの思いやりです。
換金しにくい財産の例は、不動産(土地や家)・同族会社の株式など。こういった財産が多い方は、財産の目録を作成し、納税額をシミュレーションし、その財産の中で相続税の納税が可能かどうか、確認することから始めましょう。
生命保険による相続対策
平成27年の税制改正で、相続税は富裕層だけではなく、一般庶民にも影響のある税金になりました。
そのような中、生命保険を活用した相続税対策は、検討しておきたい対策の1つです。
なぜなら、財産を減らす効果があり、納税資金の確保にもつながるからです。
財産を減らす効果
受け取った死亡保険金も相続税の課税対象になりますが、法定相続人1人につき500万円の非課税枠がもうけられています。
たとえば法定相続人が3人の場合、相続人の誰かが死亡保険金で1,500万円受け取ったとしても評価は0円になります。
つまり、同じ金額を預貯金で残しておくよりも、一時払の終身保険に加入しておいたほうが、相続人にとって後で受け取る金額は同じでも、課税ベースが小さくなります。
ただし、相続人以外(孫など)が保険金の受取人の場合は、法定相続人1人につき500万円の非課税枠は使えないのでご注意を!
納税資金の確保
生命保険加入の検討の前に、まず、納税額をシミュレーションし、相続財産の範囲で納税可能かどうか、現状把握をしましょう。
なぜなら、必要な納税資金額がわからずにやみくもに契約をしてしまうと、オーバーインシュランスとなり、保険料の負担が重くなりかねないからです。
納税資金がどうも少なそうだという場合に、生命保険契約を検討します。
保険契約を何の気なしにしてしまうと、保険金受取人を配偶者にするケースが多いと思いますが、配偶者には相続税の軽減措置があるので、配偶者が多額の税金の負担に苦しむことはあまりありません。
相続税の納税資金の確保が目的の保険契約の場合は、相続税の納税で苦労する「子」を受取人とするのがおすすめです。
また、契約のしかたにより、死亡保険金を受け取ったときの税金は異なります。
契約者 (保険料負担者) |
被保険者 (個人) |
保険金 受取人 |
課される 税金 |
被相続人 |
被相続人 |
相続人 |
相続税 |
相続人 |
被相続人 |
相続人 |
所得税 (一時所得) |
第三者 |
被相続人 |
相続人 |
贈与税 |
これを活かして、贈与と生命保険を絡める対策もあります。
親から子や孫に、毎年、保険料相当額の資金を贈与し、契約者と受取人は子や孫、被保険者を親として生命保険に加入します。
毎年1人あたり110万円の保険料に相当する資金を子や孫に贈与すると、10年間で1人あたり1,100万円の財産が移転します。
そして、相続があった時に子や孫に支払われる保険金は、相続税の対象ではなく所得税(一時所得)の課税対象になります。一般的に税率の低い所得税の課税となるので、この方法を使うと、相続税と所得税の二重の節税効果が期待できます。
相続(争続)対策にも保険の活用を!
生命保険は、相続税対策だけでなく、相続(争続)対策にも有効です。
例えば相続財産のほとんどが不動産というようなケースで、複数の相続人がいる場合、不動産を細かく分割するわけにもいかず、遺産分割でもめてしまうことがあります。
こういった場合、不動産は遺言で1人に引き継がせ、他の相続人を生命保険の受取人に指定することで、「争続」を避けることができます。
■ スポンサー広告 ■対策に最も大切なこと
贈与を使った対策にしろ、生命保険加入にしろ、1年でも早く対策を始めるのが得策です。
なぜなら、贈与は1年あたりの非課税枠が決まっているので、早く実行することで、トータルの財産の移転額は大きくなります。
生命保険は被保険者の年齢が高くなるにつれて、保険料の負担が高くなります。
だから、相続対策に一番大切なことは「早い時期から実行する」ことなのです。効果を最大限に受けるためにも、これにつきます。