こちらは、相続が発生した方や、相続への備えを考えている方向けの記事です。
小さな相続専門税理士のきむら あきらこ(@k_tax)です。
今まで、亡くなった人の預貯金は、遺産分割が終了するまで相続人全員の同意がない限り、相続人単独での払い戻しは原則としてできませんでした。
そのため、葬式費用や医療費、介護費用、相続人の生活費などの支払いが困難になることが多々ありました。
税理士きむら
早速その内容を見てみましょう!
改正前の相続と預貯金引き出し事情
以前は、金融機関に相続発生が知れてしまうと、被相続人の預貯金は凍結されていました。
そうなると、遺産分割協議が整うまでは、預貯金は引き出しできない状態になってしまいます。
そこで、葬式費用や死後に請求される医療費や介護費等については、遺族の誰かが自分の財産から立て替えて支払い、後日、相続した預貯金を立て替え分に充当するというのが一般的な流れでした。
被相続人の財産に頼って生活していた相続人などは、このために生活費に困るようなケースもありました。
こういった事態を回避するには、以前であれば、亡くなる直前に被相続人の口座からまとめて引き出しをするしかありませんでした。
遺産預貯金の払い戻しは7月1日から可能
この不都合を解消するため、民法の改正法に盛り込まれたのが、遺産預貯金の払い戻し制度で、この7月1日から、被相続人の預貯金の払い戻しが可能になりました。
それまで、凍結された預貯金からお金をおろすことができるようになるには、遺産分割協議を終え、必要書類を金融機関に出してからが原則でした。協議が長引けば長引くほど、上記の立て替えをした遺族などは困っていたわけですから、この改正は遺族にとっては朗報です。
ご遺族だけでなく、支払いを待つ側である医療機関や介護施設にとっても、ありがたい改正なのではないでしょうか。
この払い戻し制度、預貯金の払い戻しが7月1日以降であれば、7月1日より前に発生した相続であっても適用が可能です。
■ スポンサー広告 ■払い戻しは法定相続分の3分の1を限度として150万円まで
ただし限度なく引き出しできるわけではなく、限度があります。
報道などではひとくちに「150万円を限度として」と表現されていますが、実際はちょっと複雑です。
1)150万円(金融機関ごとの基準)
2)その預貯金口座(預貯金債権)に対する法定相続分の3分の1(口座の基準)
この1)と2)のうち、いずれか低い金額が、払戻しの限度額になります。
税理士きむら
例1・150万円払い戻せるケース
相続人が子2人。残高が1,200万円の場合。
2)の金額は、1,200万円×法定相続分(2分の1)×3分の1=200万円
150万円<200万円なので、この場合は150万円まで払い戻すことができます。
例2・払い戻しが150万円より少なくなるケース
相続人が子2人。残高が600万円の場合。
2)の金額は、600万円×法定相続分(2分の1)×3分の1=100万円
150万円>100万円なので、この場合の払い戻しの限度は100万円ということになります。
この例は、いずれも相続人1人あたりの上限です。つまり、例2のケースであれば、2人合わせれば200万円まで払い戻しで用立てできることになります。
また、この上限は口座ごとの制限です。同一の金融機関の他の口座であれば、上記の制限の範囲内、かつ、累計150万円の範囲内で払い戻しを受けることができます。
そして、他の金融機関の預貯金については、別途限度額計算をして、払い戻しを受けることができます。
まとめ
以上、民法改正による、遺産預貯金の払い戻し制度についての解説でした。
税理士きむら
・150万円と預貯金残高×法定相続分×1/3のうち、いずれか低い額が払い戻しの制限額。
・この制限額は、相続人1人ごと・預貯金口座ごとに適用(ただし1金融機関150万円まで)
といったところが、ポイントです。