自分の会社とお金の貸し借りをしている、中小企業経営者の方に向けた記事です。
小さな相続専門税理士のきむら あきらこ(@k_tax)です。
中小企業の経営をしていると、会社にお金を貸したり、逆に会社からお金を借りたりは、ありうることです。
税理士きむら
よろしければ、最後までお付き合いください。
社長が会社からお金を借りる場合
議事録と金銭消費貸借契約書の作成を!
法務
社長が会社からお金を借りることは、基本的に、会社にとって利益相反行為です。
正当な手続きを経ないで社長がお金を借りた場合、役員や株主に第三者がいるような会社であれば、「会社に不当な損害を与えた」ということになり、背任ということにもなりかねません。
そこで会社からお金を借りる際は、会社法の規定により取締役会(取締役会を設置していない会社は株主総会)の承認等が必要になります。
というわけで、取締役会等はきちんと開き、議事録と金銭消費貸借契約書は作成しておいて下さい。あ、金銭消費貸借契約書には印紙もお忘れなく。
(契約書への押印について知りたい方は、こちらをご覧ください。)
署名捺印・記名押印・契印・割印・捨印〜契約書に押す印の意味を正しく理解しよう
税務
株主は社長(とその親族)のみというオーナー会社であれば、会社からお金を借りても、非難する外部の人間は会社にいないわけですから、法務のリスクはほとんど無いといえます。
が、税務のリスクは大いにあります。
たとえば、契約書が無く、「あるとき払いの催促ナシ」の状態で長期間お金を借りているようであれば要注意。なぜなら、税務調査で社長に対する賞与とされるおそれがあるからです。
賞与と認定されると、会社は損金にすることはできないし、社長個人には所得税と住民税が課されるし、ダブルパンチです。
そんなことにならないためにも、契約書を作成し、約定に基づいてきちんと返済をしていくことが、税務リスクを避けるポイントとなります。
会社からお金を借りたら利息はちゃんと払う
会社からお金を借りたら、会社に利息を払うこともお忘れなく。たとえ自分がオーナーのプライベートカンパニーであっても、です。
法務
会社は堅苦しい表現で言うと「利益追求目的」で設立された社団。法的には「会社が利益を追求しないなんてことはあり得ない」わけです。
つまり、会社からお金を借りたのに利息を支払わなければ、「会社は、得られるべき利益を得られなかった」ということで、取締役会で問題になったり、株主に第三者がいれば、総会で突き上げをくらうことになるでしょう。
税務
利息を払わないと、税務でも問題になります。
税務調査で会社が利息をとってないことが問題視されると、会社は利息の計上漏れということになり、修正申告で認定利息を計上することを求められます。
利息相当額が、社長の役員報酬として給与課税される可能性もあります。
会社に利息を払う場合には、「適正な利率」で計算することとされています。
① 会社が金融機関などから借り入れて、それを社長に貸付けたことが明らかな場合(借入と貸付がひも付きになっている)には、会社が借り入れたその借入金の利率
② ①以外の場合は、貸付を行った日の属する年の前年11月30日を経過するときにおける公定歩合に年4%を加算した利率(0.1%未満切捨)
※ 上記①・②の利率ではなくても、次の場合には給与課税されません
- 災害、疾病等で、臨時的に多額な生活資金が必要になったため、その資金として貸付けた金額で、合理的に必要と認められる返済期間にかかる利息(この場合は無利息でも良い)
- 会社の前年の平均調達金利など、合理的と認められる利率で貸した場合
- 適正な利率で計算した金額と、実際にとっている利息との差額が年間5,000円以下の場合
社長が会社にお金を貸す場合
社長は必ずしも利息をとらなくてもよい
法務
社長が会社にお金を貸すことは、会社からお金を借りるのと違って会社の財産をき損させることにはなりませんから、法務上あまり問題になることはありません。でも、最低限の書類(金銭消費貸借契約書)は作っておきましょうね。
税務
案外知られていないのが、社長が会社にお金を貸した場合は、利息を受け取らなくても特に問題はないということ。社長の所得を不当に減少させることになる場合を除いて、社長は利息をもらわなくても、税務では問題になりません。
ここが会社からお金を借りる場合と違うところです。
もちろん適正な利率で会社から利息をとっても構いません。ただしこの場合、社長は利息分を含めて確定申告をすることになります。
(同族会社でなければ、利子等の額が20万円以下の場合には、申告が不要で済む場合があります。詳しくはこちらをご覧ください。)
確定申告「20万円以下申告不要ルール」を正しく理解しよう!むしろ税務で問題となるのは、社長のお金の出所です。会社へ多額の貸し付けをする場合は、その資金の出所を説明できるようにしておきましょう。
会社への貸し付けは相続財産になる
会社への貸し付けは、社長に相続が発生した場合、相続財産になります。これがけっこうアタマが痛い問題です。
会社への貸し付けが多額にある場合は、
① 役員報酬を下げ、その分、会社からの返済を進める
② 貸付金を債務免除してあげる(税法上の繰越欠損金がある場合)
③ 債務の資本組入(DES)を行う
等の方法により、貸付金残高を減らす方向で検討しましょう。
■ スポンサー広告 ■お金の貸し借り、金融機関はこう見る!
ここまで法務と税務の観点から、社長と会社のお金の貸し借りについてお話ししてきましたが、中小企業にとってはもう一つ大きな視点があります。それは、これらの取引を金融機関はどう評価するかということです。
会社からの借り入れ(社長貸付)
会社からの借り入れ(会社からみると貸付金=社長貸付)は、金融機関から厳しい評価を受けると心得ておいて下さい。
まず、「会社と個人の区別がついてない」という心証を与えることになります。また、会社財産を査定する際、貸付金は資産ではありますが、「回収の可能性(現金化される可能性)が低い資産」と見られ、「資産価値ゼロ」とされます。
つまり「社長個人の資金繰りに回る恐れアリ」という判断され、金融機関に融資を依頼しても断られる可能性が高くなるというわけです。
しかし、会社を黒字化するために役員報酬を下げる一方、個人の生活維持のため、会社から一時的にお金を借りるということも考えられることです。
そういった場合には、来期以降の会社業績予測と
「来期は役員報酬をもとに戻し、○年○月までに貸付金は返済する予定です」
と、金銭消費貸借契約書を見せるようにしましょう。
返済予定が立っているのなら、金融機関に下手に勘ぐられる前にハッキリその事実を言ってしまうことです。
会社への貸し付け(社長借入)
会社への貸し付け(会社から見ると借入金=社長借入)も、多額だとあまり良いことではありません。
銀行は企業の財務数値などを使って点数評価しているのはご存知と思いますが、その財務数値の中での重要な指標である「自己資本比率」が悪くなってしまうからです。
社長借入をなくすことができれば「自己資本比率」がその分アップし、銀行の審査上有利になります。つまり、先にお話した役員借入金を相続財産としないための対策は、同時に財務体質改善のための手法でもあるわけです。
まとめ〜会社とのお金の貸し借りを軽く考えないこと!
中小企業では、資金調達の一環として社長が会社にお金を貸したり、逆に会社のお金を社長が借りたりすることは、ありうることです。
特に株主イコール経営者のオーナー会社だと、気軽に貸し借りを行うわれることも多いかと思います。
ところが、この「気軽さ」が落とし穴。行るべき処理を怠ると、社長と会社のお金の貸し借りにはリスクがあることが、おわかりいただけたかと思います。
税理士きむら