YouTube【小さな相続専門TV】

税法用語の意味がわかるブログ(4)「所得税の仕組みから理解する分離課税・総合課税」

こちらは、税法用語に詳しくなりたい、経営者や経理担当者向けの記事です。

小さな相続専門税理士のきむら あきらこ(@k_tax)です。

不定期連載「税法用語の意味がわかるブログ」第4回目です。

税理士きむら

私が税務会計業界に入った当初の記憶を思い起こしながら、「え!こんな意味なんだ」と違和感を感じた税法用語の中から、これを覚えておくと税法の知識が深まるというものをピックアップして、解説しています。

預金利息の源泉税は、会社と個人で取り扱いが違う

前回の“税法用語の意味がわかるブログ(3)「法人(会社)の税額控除」” の中で、銀行の預金利息から差し引かれている税金は、会社が確定申告する際に税金の前払いとして扱うことができるとお話ししました。

この預金利息から源泉徴収されている税金、個人である皆さんが受け取る利息からも引かれています。

こう言うと、カンの鋭い方は

「ということは所得税の確定申告の時に、預金利息から差し引かれた源泉税は、前払いの税金として控除したり還付できたりするんじゃないの?」

と思われるかもしれませんね。

ところが個人の場合、それは出来ないのです。それは、所得税のちょっとフクザツな計算方法に理由があります。

所得税で、個人の所得を10に分ける理由

個人の所得(儲けや利益)に対して課される所得税や住民税の計算方法ですが、1年間で得たすべての儲けに対し税率を掛けるのではなく、まず儲け(所得)を10に分類するところからスタートします。

そしてこれらの所得に対し、それぞれに応じた方法により、所得の金額や税額を計算します。

個人の10種類の所得

所得の種類 内容
1)利子所得 銀行の預金の利子や公社債投資信託等の収益の分配など
2)配当所得 株式の配当など
3)不動産所得 土地や建物など不動産の貸し付けから生じる所得
4)事業所得 事業(商売)から生じる所得
5)給与所得 給料、賃金、賞与など
6)退職所得 退職した際に支給を受ける退職手当など
7)山林所得 山林(立木部分)を譲渡したことによる所得
8)譲渡所得 本来販売を目的としていない資産を譲渡したことによる所得
9)一時所得 懸賞の賞金品、競馬の馬券の払戻金、生命保険の一時金など
10)雑所得 年金など、上記のいずれにも該当しない所得

どうしてこのような計算方法になっているのか、給与所得と退職所得を例にとって説明しましょう。

給与はその年に働いた分に対するものです。

一方で退職金は、長年にわたり会社に勤めたことによる功労分であり、入社から退職までの給与の一部後払いという性質と、退職後の老後の生活を支える原資という性質があります。

このまったく性格の違う2つの所得に一律に同じ税率を適用したらどうなるでしょう。

退職所得の額は比較的高額なので、がっぽり税金を課されることになってしまいます。これでは退職所得の性質(給与の後払い・老後の生活資金)から考えて理不尽です。

そこで所得税法では、個人の所得の性質の違いにより、所得金額の計算のしかたや税額の計算のしかたを変えるようにしています。

これが所得を10に分ける理由です

■ スポンサー広告 ■

10の所得ごとに所得金額を計算

まず、個人の所得の性質の違いにより、所得金額の計算のしかたを変えているとはどういったことなのでしょうか。

身近な具体例をお話しします。

たとえば、サラリーマンの給与所得は、給与収入の額に応じて自動的に計算される「給与所得控除」という概算経費を、給与収入から差し引いて計算します。

事業所得の計算は、事業で得た収入から事業でかかった必要経費を差し引くことにより計算します。

給与と事業の大きな違いは、「もうけ」を計算するのに、実際の経費額を使うのか、概算経費で計算するのかということだと言ってもいいでしょう。

ちなみに利子所得の計算のしかたは簡単です。
収入金額がそのまま所得の額となります。

このように、所得の種類により、計算のしかたが細かく規定されています。

所得の性質の違いで税額計算のしかたも変わる~総合課税と分離課税

次に、個人の所得の性質の違いにより、税額の計算のしかたも変わりますが、これは細かく話しだすと大変長くなってしまいます。

ですので、今回は大雑把な構造だけつかんでもらえればOKです。

所得税の課税のしかたには、「総合課税」「分離課税」の2種類があります。

総合課税は一年間の所得を、所得の種類に関係なく合算して課税するものです。

それに対し分離課税は、特定の取引を他の所得と合算せず、別途課税するものです。

総合課税と分離課税の所得の代表例

総合課税 不動産所得、事業所得、給与所得、一時所得、雑所得
分離課税 退職所得、土地建物等の場のによる譲渡所得、株式等の譲渡所得、利子所得

個人の利息に対する税金は他の所得の額の影響を受ず、低所得者でも大金持ちでも、一律20%(住民税を含む。復興税を入れると20.315%)という税率計算になっています。

税理士きむら

所得税の勉強をし出したばかりの頃、この事実を知って、お金持ちは利息に関しては得なんだな~と、思ったものでした。

このように、預金の利息は、他の所得とは関係なく別個に税金を計算する「分離課税」です。

だから、利息から徴収される税金は、給与や事業などの総合所得に対する税金の前払いとして取り扱うことが出来ないのです。

源泉徴収だけで課税が完結する「源泉分離課税」

また、預金の利息に対する税金は、分離課税であるうえに、所得税(復興税)と住民税の源泉徴収だけで課税が終了するという仕組みになっています。

このように源泉徴収によって課税関係を完結させ、確定申告を必要としない制度のことを「源泉分離課税」と言います。

これもよく耳にする言葉だと思います。これを機会に、おぼえておきましょう。

まとめ

税理士きむら

預金利息から引かれている源泉税。
会社(法人)が確定申告する際は、税金の前払いとして扱うのに、個人の確定申告の時は、そうはできません。
これは、個人の所得税のしくみに、特色があるからです。
個人の預金利息は分離課税(他の所得とは合算しないで税額計算する所得)で、源泉徴収で課税が完結する仕組みなので(源泉分離課税)、預金から差し引かれた源泉税を、前払いの税金として取り戻すことは出来ないのです。

※「税法用語の意味がわかるブログ」は、研修出版「月刊経理ウーマン」に連載中の「税法用語の意味がわかる辞典」をリライトして掲載しています。