小さな相続専門税理士のきむら あきらこ(@k_tax)です。
「消費税の2023年問題」ことインボイス方式導入は、消費税を納めなくてはならない事業者(課税事業者)も、売上高が1千万円以下で消費税を納める必要のない事業者(免税事業者)も、すべての事業者が「知らない」ではすまされない改正です。
▼そこで当ブログでは、こちらのまとめ記事で、インボイス制度について徹底的に解説しています。
2023年10月からの消費税インボイス制度(適格請求書等保存方式)のまとめ本ページ「消費税の免税事業者について理解しよう」は、このインボイス制度のまとめを補足する目的で書きました。
まず、まとめを読んで、「消費税の免税事業者制度について、もう少し詳しく知りたい」という方は、本ページを読むことで、さらに理解が深まるようになっています。
もちろん、単に消費税について知見を深める目的で読んでも、役立つ内容になっています。
税理士きむら
よろしければ、最後までお付き合いください。
消費税の申告と納税を免除される免税事業者
日本国内の事業者は、原則として、1事業年度(個人事業者は1年)の間に商品の販売やサービスの提供を通して預かった消費税から、同じ期間の間に支払った消費税を控除する形で、納税額を計算します。
そして、会社(法人)の場合は決算日から2ヶ月以内に、個人の場合は3月31日までに申告と納税をします。
消費税の納税額の計算方法を理解しよう(特集インボイス制度)ところが、一定の要件を満たす小規模な事業者は、消費税を申告・納税する義務が免除されます。このような事業者を、消費税の免税事業者と呼びます。
税理士きむら
ところで
こんな疑問をお持ちの方も、いらっしゃることでしょう。
と言うわけで、まずは消費税の免税事業者の要件から、見ていきましょうか。
免税事業者の要件
消費税の免税事業者の要件は、パっと見は複雑です。
基本的に、一定期間の売上高で判定するのですが、設立当初の会社の場合は資本金の額も判断に関係するなど、判定の基準がいくつもあるからです。
具体的には、次の1. ~5. のいずれかの要件を満たした事業者は課税事業者に該当することとなり、免税事業者にはなりません。
- 基準期間(通常は2事業年度前。個人であれば2年前)における課税売上高が1,000万円超である。
- 消費税課税事業者選択届出書を提出している。
- 特定期間(通常は前事業年度や前年の上半期)における課税売上高(もしくは給与等支払額)が1,000万円超である。
- 設立から2年以内の法人で、期首の時点において、資本金の額または出資の金額が1,000万円以上、もしくは、課税売上高5億円の会社の子会社である。
- 相続・合併・分割等の納税義務の免除の特例により課税事業者となる。
・・・と、まぁ、色々と書きましたが、ぶっちゃけ開業してしばらく立った事業者ならば
2期(2年)前の課税売上高が1,000万円以下ならば免税事業者となるが、特定期間の判定もあるので、前期(前年)の上半期の売上高にも注意
と、おさえておけばいいです!
きむら
免税事業者になるかどうか、売上高の判定で気をつけたいこと
この2期(2年)前や前期(前年)の上半期の売上高を判定する際に、いくつか注意したいことがあります。
そこで、実務で誤ったり迷ったりしがちな主要な注意点を、ピックアップしてみました。
① 2期(2年)前が免税事業者だったら税込、課税事業者だったら税抜で判定
2期(2年)前の課税売上高が1,000万円以下かどうかの判定については、2期(2年)前が課税事業者だったら税抜売上高で、免税事業者だったら税込売上高で判定します。
例えば、フリーランスであるあなたの2年前の売上高が、1,026万円だったとしましょう。
あなたが2年前、課税事業者だったなら、税抜売上高で判定することになるので、
税抜売上高950万円(1,026万円×100/108)≦1,000万円
今年は免税事業者になります。
あなたが2年前、免税事業者だったなら、税込売上高で判定することになるので、
税込売上高1,026万円>1,000万円
今年は課税事業者になります。
② 2期前が設立事業年度で12ヶ月に満たない場合は、年換算して判定
2期前が設立事業年度の場合は、売上高を1年ベースに換算します。
例えば、2期前が設立から決算まで8ヶ月で、売上高が税込700万円だったとしましょう。
設立事業年度は「2期前」が存在せず免税事業者になるので、税込売上高で判定します。
さらに、8ヶ月を年換算するので、
税込売上高700万円÷8×12=1,050万円>1,000万円
今年度は課税事業者になります。
月数を数える上で1月未満の端数が生じたら、切り上げて計算します(例:7ヶ月15日→8月)。
そんなことにならないよう、このルールを覚えておいてくださいね。
③ フリーランス(個人事業者)が2年前に開業した場合は、年換算しないで判定
一方、2年前に開業したフリーランス(個人事業者)の場合、開業から年末までの期間が12ヶ月に満たなかったとしても、売上高を年換算する必要はありません。
例えば、2年前の5月1日に開業し、年末(決算)まで8ヶ月で、売上高が税込700万円だったとします。
開業年は「2期前」が存在せず免税事業者になるので、税込売上高で判定します。
売上高は、個人の場合、会社と違い年換算はしないので
税込売上高700万円≦1,000万円
今年は免税になります。
④ 売上高?給与?…特定期間の判定のしかた
平成25年から始まった特定期間による、消費税の免税・課税判定。
それまでは、2期(2年)前の判定だけでよかったのですが…
税務署
という基準が設けられたんです💧(どんどん複雑になる税法…イヤですね)
ところでこの特定期間の判定は
特定期間(法人はその前事業年度の上半期、個人は前年の1月1日から6月30日)の課税売上高(もしくは給与等支払額)が1,000万円を超えたら課税事業者
という規定になっているのですが…これってどういう意味なんでしょうか?法律って、ムズカシイ…。
これは「上半期の売上高で判定してもいいし、上半期に支払った給与の額で判定してもいいよ」ということなので、結論を言うと、売上高と給与等支払額、どちらかが1,000万円を超えても、片方が1,000万円以下なら、免税事業者でいられるということです。
※給与等支払額は、従業員の給与や賞与だけでなく、役員報酬やアルバイトへの支払いも含みます。
⑤ 「課税売上高」で判定することに注意
判定の基礎となる売上高は「課税売上高」であるということにも気をつけましょう。
課税取引と免税取引は課税売上高にカウントされ、非課税取引と不課税取引は課税売上高には入りません。
また、PL(損益計算書)の売上高だけでなく、雑収入や事業用の固定資産の売却収入なども、見落とさずに課税売上高の判定に入れるようにしましょう。
課税売上高に なるもの |
課税取引 | 国内における商品・製品の販売やサービスの提供(本業・副業・雑収入問わず)、事業用固定資産の売却収入など |
免税取引 | 商品製品の輸出売上、非居住者に対するサービスの提供、国際輸送など | |
課税売上高に ならないもの |
非課税取引 | 受取利息、土地売却収入、株式譲渡収入、住宅賃料など |
不課税取引 | 受取配当金、保険金、補助金、助成金、寄付金、祝金、見舞金、損害賠償金、立退料など |
きむら
「最大4年間は消費税は支払わなくていい」のからくり
ここまでのお話でお分かりのとおり、ざっくり言うと
「消費税は、事業開始後最初の2年間は払わなくて良い」
わけですが(2期前の売上高が存在しないので)
「最大4年間は消費税は支払わなくていい」
という話を、聞いたことはありませんか?
その種明かしをすると、最初の2年、個人事業者として事業を行い、3年目に会社を設立(法人成り)するのです。
そうすれば、4年間基準期間が無い状態となり、その間に特定期間の課税売上高等が1,000万円を超えなければ、4年間、免税事業者でいられるというわけです。
税理士きむら
この場合、会社を設立する際の資本金は、1,000万円未満におさえる必要があります。資本金1,000万円以上で設立すると、最初の2期は基準期間が無くても、問答無用で消費税の課税事業者になってしまうのです。
参考 No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例国税庁免税事業者が留意すべきその他のこと
免税事業者でも消費税を価格に上乗せ可
免税事業者に関しては、実務で次の質問をよく受けます。
「消費税の免税事業者は、販売価格に消費税を上乗せしてもいいの?」
税理士きむら
なぜかというと、消費税法に関する法令や通達には、免税事業者が消費税を上乗せしてはならないとは一切規定されていないから。
また、免税事業者といえども、事業を行う上で支払をする際には消費税を支払っている(消費税を負担している)からです。
これらの理由から、消費税の免税事業者であっても、価格に消費税を上乗せして良いことになっています。
相手が免税事業者だからといって
と依頼することはできませんし、そのような要求をしてしまうと、場合によっては消費税転嫁対策特別措置法違反になってしまいます。
免税事業者のデメリット
「消費税を価格に上乗せしできるし、預かった消費税は納税しなくていいし。なんだか消費税の免税事業者ってオイシイな…。」
ここまで読んで、そう感じた方もいらっしゃるかもしれませんね。
では、最後に免税事業者であることの注意点(デメリット)について、お話ししましょう。
消費税は原則として、売上先から預かった消費税から、仕入や経費等の支払いに含まれている消費税を控除した残額を、税務署に納めることになっています。
もし、支払いの消費税のほうが売上等の消費税より多かった場合は、払いすぎた消費税分を、税務署が還付してくれることになります(還付申告)。
ところが、免税事業者は申告をする義務もないかわりに、還付申告をすることもできません。
支払いが過多となった事業年度に還付申告ができないことは、免税事業者のデメリットであるといえます。
そこで、免税事業者が、もしも「還付を受けるために申告書を提出したい!」という場合には、あらかじめ選択届出書を提出することで、課税事業者になることができます。
参考 [手続名]消費税課税事業者選択届出手続国税庁届出を出して課税事業者になった場合、免税事業者に戻るには、最低2期(2年)続けて課税事業者として申告をするなどの要件を満たした上で、「課税事業者選択不適用届出書」を提出する必要があります。
参考 [手続名]消費税課税事業者選択不適用届出手続国税庁まとめ
以上、消費税の免税事業者について、お話ししました。
税理士きむら